日差しは暖かいけど風が冷たい今日この頃。
重たいコートでは汗ばんでしまう、服装がちょっと難しい季節に入ってきました。

どんなコートを着たら良いかな、と頭を悩ます季節・・・
こんな時こそツイードコートがピッタリなんじゃないかなーと思います。

ツイードは、元々スコットランドの農家が家族のために手作りしていたものだそう。
厳しい寒さの中、野良仕事をする家族ができるだけつらい思いをしなくて済むように・・・と大変な愛情を込めて作っていたものだったと本で読んだことがあり、ツイードの奥深さに心を動かされました。
当時のツイードは太い糸で織られた重たい服地でしたが、時代を経るごとに洗練されていき、現在のお洒落な薄手のツイードへと変化しました。
農家の野良着から都会のお洒落着へ変化したツイードですが、着る人のことを思い浮かべ、気遣いながら織られていた歴史は私の心を掴み、強い憧れへと変化していきました。

ツイードというものを知ってから数年の時を経てもツイードへの憧れは衰えず、国産サフォーク羊毛で紡績糸を作ったら最初に服地を作りたい。
そう思い、作ったツイードのコートです。

参考作品:紳士用コート
使用服地 「SUFFOLK」服地
使用量 4.2m
着丈  62cm
背肩幅 46cm

当時住んでいた鹿児島県のオーダースーツ店で仕立てていただきました。
糸の密度が違う3種のサンプルを実際にお店に持っていき、スタッフさんに「これだったら大丈夫!」と選んでもらったものを元にツイードを織りました。
選ばれたサンプルは3種の中でも糸の密度がいちばん高いもので、低密度の織りばかりしていた私には未知のものでしたが工夫を重ねて何とか織りあげました。

きちんと仕立てるからには、丈夫で長持ちするように服地の強度にはこだわって、手織りでできるギリギリ限界の密度。
織る時は糸を強く打ち込む必要があり、本数も多いので最初は体力勝負でした。

織り上がりはタテ糸とヨコ糸が交差しただけの状態で、まだまだ「布」と言うには程遠いのでお湯に浸けて揉むことでタテヨコの糸同士をしっかり絡ませて「布」に仕上げます。
しかし、サフォーク羊毛は毛同士が絡みにくい羊毛なので根気強く作業をする必要があり汗だくで頑張りました。
ツイードを作るのは力仕事です。

「布」になったツイードは次に、セット加工を施します。
この加工は、服地が濡れても型崩れがしにくいよう布のサイズを固定してしまう作業です。
じっくり一晩かけて湿気を与え、時間をかけて乾燥させる工程を繰り返すこの工程はロンドン・シュランク法と呼ばれ昔から行われてきた手法。
時間がかかるゆえに現代の製造現場では採られない手法ですが、この処理を経た服地はギュッと引き締まり自然な艶が出ます。

最後に仕上げのアイロンがけ。
最終チェックとして切り取った服地を水につけて、どのぐらいサイズが変わるか確認します。
ロンドン・シュランク法では0.1%以内のサイズ変化であれば許容範囲内ですが、見事にクリアしていたので服地は完成となりました。


実はこのツイードを作る遥か前に、国産サフォーク羊毛を手紡ぎして服地を織り、自分でコートを仕立てた経験があります。
当時はまだ技術を模索していた段階で、知識も技術も中途半端だったがために結果的には失敗でした。
型崩れしたコートを見て、羊に申し訳なく、もう絶対に失敗しないと固く誓った苦い経験から沢山の技術書を読み込んで毛織りを学びました。

古書として何十年も眠っていた技術書をあれこれ調べながら何とか理解して、こうして立派なツイード服地が作れたのは僥倖です。
本の出版をした技術者、羊毛提供してくれた羊や羊飼い、協力企業、仕立てのお店・・・国産サフォーク羊毛で作りたいという私の思いに応えてくれた多くの人の優しさと協力でこのツイードはできています。