SUFFOLK SQUARE で使用する国産羊毛はほとんどがサフォークという品種の羊毛です。
サフォーク種はイギリスのサフォーク州が原産の大型の肉用種で強健で飼いやすく、白い体に黒い顔と四肢が特徴です。
日本で飼育される羊の中では最多を占めており、観光牧場などでもよく見られます。
羊毛は、やや太く弾力があり摩擦に強い性質なのでツイードに適した羊毛になります。
現代では柔らかい羊毛がたくさん生産されているので太い羊毛というのは馴染みが無いかもしれませんがメリノなどの柔らかい羊毛が世に出てきたのはほんの2~300年程前のことで、それ以前から存在する伝統的なニットや服地はサフォークと同じような太い羊毛で作られていました。
本来、国産羊毛などのような太い羊毛は丈夫で潰れにくく非常にあたたかいので普段着として重宝されてきた歴史があります。
現代社会では昔のような重労働を皆がこなす必要がなくなり、結果メリノなどのような柔らかくデリケートな羊毛を使用したニットが主流になった経緯があります。
日本で採れる丈夫であたたかい羊毛は伝統的な服地やニットに向くのに一般に流通していないのは、個人的にとてももったいないと思いますが大規模に製品化したくてもできない理由があります。
元々、羊が日本に存在していなかったからです。
かつての日本には固有の羊が存在せず、大陸から贈られるフェルトや絨毯が貴重なものとして珍重されてきました。
江戸時代になっても、羊という生き物を描こうと画家は想像をふくらませ幕府は羊を牧夫付きで輸入したりと羊は憧れの生き物だったようです。
当時は日本の多潤な気候に羊は適応できず、定着はしませんでしたが文明開化と共に羊毛製品は下着や毛布として人々の生活に入り込んでいきました。
羊毛は民間での需要もありましたが、軍隊の西洋化に伴い制服としてウールの服地が大量に必要で、国内で羊毛を確保する目的から日本でも本格的に羊の飼育奨励と羊毛加工が研究され始めました。
当時は羊毛用のメリノ種を導入・飼育していましたが日本の気候に羊が合わず数が増えず、次に毛肉兼用のコリデール種が導入されました。
コリデール種は日本の気候によく適し強健で飼いやすく、頭数を徐々に伸ばしていきましたが終戦を迎えオーストラリアなどからの羊毛輸入が解禁されると柔らかな羊毛が安価で大量に輸入され始め国内で羊毛を賄う必要がもはやなくなり、国産羊毛の役目は終わってしまいました。
国内での羊毛加工も、既に洗い済みの綺麗な羊毛が輸入できることから羊毛を洗える設備が徐々に姿を消し、国内で刈り取られた羊毛を加工できなくなってしまいました。
終戦以降は国内の羊毛は必要なくなってしまったので、飼育する羊種は毛肉兼用のコリデール種から食味の良い肉用種のサフォーク種へと変更・導入され今日に至ります。
現在の日本で国産羊毛を利用しようと考えても、国内では綺麗な状態に加工できず、海外で加工するにもコストの問題で難しいので大規模な生産加工は行われていません。
また、好みの話になりますが日本では一般的にメリノのように柔らかくちくちくしない羊毛がとにかく好まれる傾向にあります。
自国で羊を飼い羊毛を利用する文化が無かったゆえに大衆の好み・価値観が製品に徹底的に反映され輸入の柔らかい羊毛製品が良品であり、硬い羊毛製品は質の劣るものとして扱われたようです。
これは物資の不足する戦時下に羊毛が足りず、スフと呼ばれる合成繊維(ビスコース)を多量に混ぜて硬いうえに合成繊維特有の手触りの悪さがある毛布が大量に出回り、硬い羊毛製品にネガティブなイメージがついてしまった影響があると考えられます。
硬い羊毛は硬い羊毛なりに魅力があるものですが物資が不足する中でついた悪いイメージが強く、柔らかさのみで良し悪しを判断してしまう習慣がついてしまった為に国産羊毛はごく最近まで輸入羊毛に埋もれ日の目を見られない存在でした。
SUFFOLK SQUARE の作品で使用されている羊毛を提供するサフォーク羊は日本固有の品種ではありませんが、日本の環境下で変化を遂げ英国のサフォーク羊毛よりも柔らかくほんのり上品な艶のある日本独自のものです。
少しの変化ではありますが手触りや見た目がかなり違い、この羊毛でしか作れないものが確かにあります。
ちくちくしない柔らかな羊毛が求められる流れについていけず時代に翻弄された国産羊毛ですが日常生活に長く寄り添える丈夫さと力強いあたたかさが魅力です。
サフォーク種の羊は、コリデール種と共に動物園や観光牧場で実際にみることができます。
羊も羊毛も、とても可愛いのでぜひ実際に見て日本の羊の事を知っていただけたらと思います。